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SDGs

2019ノーベル化学賞受賞」吉野彰先生が、 次世代を生きる子どもたちに伝えたいこと

2019年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰先生。今や私たちの生活に欠かせないスマートフォンや電気自動車などに使われる「リチウムイオン電池」を発明した、日本が誇る研究者です。

ノーベル化学賞受賞から1年が経った今、コロナ禍において将来の道を探る子どもたちとその保護者へのメッセージをいただくため、吉野彰先生にオンラインインタビューをさせていただきました。

吉野彰(よしの・あきら)先生 

●吉野彰 証明写真2.jpgのサムネイル画像旭化成株式会社 名誉フェロー
名城大学 特別栄誉教授 九州大学 栄誉教授
技術研究組合 リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)理事長

1948年生まれ。1972年京都大学大学院修士課程修了。
1972
年旭化成株式会社入社、1981年から新型二次電池の研究に着手し、1985年にリチウムイオン二次電池を発明。
2004
年に紫綬褒章、2013年にGlobal Energy Prize(ロシア)、2014年にNational Academy Charles Stark Draper Prize(米国)、2018年に日本国際賞(JAPAN PRIZE)20196月にEuropean Inventor Award(欧州発明家賞、非欧州部門)、同年ノーベル化学賞ならびに文化勲章を受賞。
2020
年より国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター長に就任。

ポストコロナの時代は、「SDGs」の17項目すべてが研究対象

■コロナ禍において、いま先生がお考えになっていることは何ですか?
まだまだ気の抜けない状況が続くため、これからも新型コロナウイルスの問題はさまざまな方面に大きな影響を与えるでしょう。コロナ以前は、少なくとも先進国においては、もはや感染症の大流行は起こらないであろうと言われてきました。ところが実際は、コロナは先進国・発展途上国を問わず感染拡大し、世界中に大打撃をもたらしました。

コロナの問題は、「SDGs(国連で採択された17項目の持続可能な開発目標)」の3番目の項目、「すべての人に健康と福祉を」に深く関係しています。SDGsの項目を一つでもおろそかにすると、人類は大変なことになるという、大きな教訓を得られたのではないかと思っています。その教訓と反省が、これから社会のいろいろな面で活かされるでしょう。


SDGsについての詳しい記事はこちら

■吉野先生は外出自粛期間中に、どのように過ごされていましたか?
やはり基本的には自宅で過ごし、会議や講義をテレワークで行っていました。コロナ以前にはなかった、新しい生活スタイルを取り入れるきっかけになったのかなと思っています。惜しむらくは5Gの技術が一般的に普及していれば、もっとテレワークに寄与したのではないかと感じました。

これからさらに通信技術が進歩して5Gが普及すれば、そんなテレワークの環境もまたガラリと変わると思います。本当の意味でのバーチャルといった、まるで対面で話しているかのようなリアル感を伴うでしょうね。

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■ポストコロナの時代、課題が山積する中で、次世代が担う研究についてどのようにお考えですか?
基本的には、先ほど申し上げた「SDGs17項目」すべてが研究対象になると思います。子どもたちが将来の、研究分野を選ぶときは、間違いなく17項目のどれかに関連しているはずです。当然、そこに挙げられた問題を解決するためには「イノベーション」が必要です。技術革新が起きないと根本的な解決につながりませんから。いまの子どもたちは、そういう意味で自分のやるべきことが明確になっていますから幸せなのではないかと思います。あとは、解決に向けて実行するだけです。

仮説を立て、結果を検証することで、研究力が鍛えられる

■研究者は結果が出るまでに長い時間がかかると言われていますが、どのようにすれば強いモチベーションを保てますか?
基本的な考え方は非常にシンプルです。「自分の研究は間違いなく、5年、10年先の社会で必要とされる」という信念を持つことです。マラソンの選手があれだけがんばれるのは、ゴールがあるからです。それと同じ。「かならずゴールはある」という信念を持ちましょう。ゴールがあると確信できれば、もう大丈夫。研究の過程でいくつもの壁に阻まれるでしょうが、それを一つ乗り越えるたびにゴールに近づいた思えばいい。少しでも早くゴールに近づきたいと考えた私は、次から次へと現れる壁でモチベーションを高めていました。「早く壁が現れてくれたら、それだけ有難い」と思っていましたね。

■まさに「先見の明」ありきかと思いますが、そういったゴールを見据えるための嗅覚は、どのように養えばよいでしょうか?
ごく身近な対象で構わないので、自分なりの仮説を立ててみるクセをつけるといいと思います。1年などの一定期間を経ると答えが分かるような仮説を立ててみるのです。もしも間違っていたら、「なぜ間違っていたんだろう」といった仮説の見直しをすることで、次への教訓が得られます。
たとえば「1年延期になった東京五輪で、誰もがまったく予想もしなかった日本人選手1人が金メダルを取る」。こんな仮説もいいかもしれません。過去の歴代受賞者を見てみて、こんな人なんじゃないか、などの理由をもとに自分なりの答えを導きだしてみます。来年、五輪が無事に開催された時にその結果がわかりますよね。

実際の研究開発も、実はその繰り返しです。仮説を立て、結果の分析・検証を行い、ダメだったときは違うアプローチを考える。自分が何かを実現するトレーニングだと思って、ぜひいろいろな対象で仮説を立ててみてください。それを続けていれば、将来を見通すうえで必要な嗅覚が鍛えられていくと思います。

■グローバルに活躍する研究者に必要なことは何ですか?
国際的に通用する人間になるためには、外国の人たちに対して、自分の国の歴史や文化を説明できないといけません。また、相手の国の文化や歴史を知っておく必要もあります。そうしないと、本当の意味での会話ができないんです。科学者同士の会話も例外ではありません。科学の道を歩む人であっても、日本はもちろん外国の歴史や文化を知っていないといけない。それは、とても大事なことです。

■先生が自然科学への興味をもつきっかけとなった『ロウソクの科学』(著者:マイケル・ファラデー)ですが、先生はこの本からどのようなことを学びとられたのですか?
私の少年時代からロウソクは非常に身近なものだったので、関心が持ちやすかったのだと思います。「ロウソクの芯はなんのためにあるのか?」「ロウソクの炎はなぜ赤い色なのか?」「なぜ長細い形になっているのか?」という事実のなかに、さまざまな化学反応が隠されているんだということが分かり、子ども心に好奇心をくすぐられたことが今でも印象に残っています。

ここから思うこととして、子どもたちの好奇心をくすぐるということが一番大切なのではないか、と感じます。今の子どもたちにもそういった経験をさせてあげたいという想いがあり、実は今は『現代版ロウソクの科学』といったものを考えています。炎は「地球の重力の存在」によって、ああいう形状になっているのですが、実は宇宙船でロウソクを燃やすと全く違う形状になるんですね。それは『ロウソクの科学』をよーく読んだら、実は読み取れるのですが、そういったことを考えるのもまた面白いと思います。

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■次世代を生きる子どもたちにメッセージをお願いします。
「あなたの研究は何歳から始めましたか?」と、ノーベル賞の受賞者はかならず聞かれます。私の場合は33歳でした。歴代受賞者の平均は356歳だったと思います。大学や研究機関で勉強を続けてきた研究者が、将来に対して思い切ったチャレンジをスタートできるのが、ちょうどその年代なんですね。

そこで皆さんも「35歳の自分」を想像してみてください。まだ先であっても、35歳の自分のために、これからどういう経験を積み、どういう勉強をすればよいかを考えてみることが大切だと思います。もちろん、いますぐ決めなくても大丈夫。いろいろなことにチャレンジして、その中から自分の極めたい道を見つけていってください。

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                            ノーベル賞受賞時のストックホルムでのお写真

■最後に、子育て世代の保護者の皆さまにもアドバイスをいただけますか?
私が科学の扉を開けたのは、小学校の先生にすすめられて『ロウソクの科学』を読んだことがきっかけでした。先ほども申し上げたように、子どもなりの知的好奇心をくすぐられたんでしょうね。そんなふうに、子どもの好奇心をくすぐってあげることはとても大切です。けれど、決して押しつけてはいけない。こよりでくすぐるような、そんな好奇心の与え方をしてほしい。好奇心さえ持てば、あとは子ども自身が勝手に伸ばしていきます。本やテレビ、公園や博物館など、好奇心を与える機会はどこにでもありますよね。できるだけ、あちこちでくすぐってあげてほしいと思います。

この記事は、「こども総合研究所」に掲載された記事を一部再編集しています。当サイトの内容、テキスト、画像、イラストなど無断転載・無断使用を固く禁じます。

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