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リカレント教育

なぜ今「リカレント教育」なのか?大人の「学び直し」の重要性を考える。~慶応義塾大学名誉教授に聞く~

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慶応義塾大学名誉教授であり、ヒューマンアカデミービジネススクールの顧問でもある池尾先生に、日本企業のいま、そして社会人に求められる「リカレント教育※」の重要性についてお話を伺いました。

■池尾 恭一 慶応義塾大学名誉教授
ウェールズ大学トリニティセントデイビッド(UWTSD)MBAプログラム マーケティング・マネジメント講師
ヒューマンアカデミービジネススクール(HABS)顧問
元慶應義塾大学ビジネススクール校長
慶應義塾大学 商学部 卒業、商学博士(慶應義塾大学)

失われた30年 - 失われた企業力

さて、リカレント教育について考える前に、「今、日本はどういう位置にいるのか」という経済的な背景をちょっと見てみたいと思います。

世界中で新型コロナウイルス感染拡大により大きな影響を受けたわけですが、コロナ以前の30年はどのような状況だったのでしょうか。
よく知られている話ですが、平成に入る前後の一人当たり名目GDP(おおざっぱにいってしまうと一人当たりの所得のことです)から読み取ることができます。下の表の「国際順位」に注目してください。

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世界のなかで日本は、1994年くらいでは第6位にいたわけです。
それが今どうなっているかというと―第33位にまで落ちてしまいました
なぜ、このような状況になってしまったのか。色々な理由があるのですが、一つは「日本企業の力が落ちてしまった」ということが挙げられるかと思います。

日本企業の力はどのくらい落ちてしまったかというと、世界の時価総額ランキングから読み取ることができます。(企業の価値というのは株式の合計になり、これが時価総額です。)

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▲時価総額の大きい企業順にランキングしたもの。オレンジの網掛けが日本企業(左:1989年、右:2018年)

1989年、すなわち平成の入り口では、世界の時価総額ランキング50社のうち、実に32社が日本企業でした。
では、平成の終わりに近い2018年にはどうなったかというと、1社です。つまり32社の日本企業がランクインしていたものが現在は1社になってしまった。
どうしてこんなことになってしまったかというと、「平成の間に世界は大きく変わったから」です。残念ながら、日本企業の大半は、その大きな変化に十分に付いていくことができなかったと言えるでしょう。

日本のIT基本法と環境変化

今、世の中では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だとか、あるいは「ネット販売・電子商取引」であるとか、「リモートワーク」といった言葉をよく耳にしますね。
これらは国家戦略などと言われていますが、そういったことの重要性というのは一体いつから始まっているのでしょうか。
実は、日本の「IT基本法」というのは、2000年に設けられています。今は、2021年ですよね。一体何をやっていたのかと思われる方も多いでしょう。大幅に遅れてしまっています。

さて皆さん、話が逸れますが「茹でガエル現象」って知っていますか?
水を張ったボウルの中にカエルを入れて、少しずつ火にかける。そうして少しずつ温めていくと、カエルは変化に気付かなくて茹で上がってしまう。ところが最初から熱湯の中に入れると驚いて飛び出していきます。何が言いたいのかというと、急激な環境の変化には気が付くけれども、少しずつの環境変化には気が付かないという例えです。ビジネス環境の変化に対応する事の重要性、困難性を指摘するために用いられていますね。
まさにこの平成の間に、「茹でガエル現象」が起こったのです。

日本の経営者たちは変化に気が付かなかったのか、というと気が付いていたと思います。私は職業柄、さまざまな経営者の方々とお会いする機会が多いのですが、皆さん気が付いていたと思います。では、なぜ行動に移さなかったのか。そこが問題です。危機感がなかったのでしょう。
そして今、コロナによって世の中が大きく変わりました。おそらく世の中はさらに急激に変わっていくことになると思います。この大きな変化に一人ひとりが備えていかなくてはいけない

そういう意味でも、今まさに注目が集まっている「リカレント教育」というのは極めて重要になります。
たしかに日本の企業は、時価総額ランキングの上位50社にランクインしていた32社から、1社になってしまいました。では、外国の企業はどうでしょうか。1989年にランクインしていた50社のうち18社は今どうなっているかというと、7社しか残っていません。そうです、日本だけではないのです。同じことをやっていたら国も企業も、そして人間も衰退してしまうのです。世の中の変化に合わせて、我々も変わっていかなくてはいけません

SONYの事業構造の変化

たとえばSONYという会社、日本企業の中では素晴らしいです。何が素晴らしいのかというと、2008年はエレクトロ二クス企業でした。今は、そのエレキ部門ははるかに少なくなり、金融やゲームの部門が中心になっており変化に対応しています。

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▲ソニー株式会社の事業構造変化

世界を見てみると、トップクラスの企業のなかでは1990年以降に生まれたネット企業が多くを占めています。つまり、既存の企業も変わらなくてはいけないですし、新しい企業も生み出さなくてはいけない局面にあるのです。

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学び直しと生産性

そのために何が必要かというと、まさにリカレント教育と叫ばれている「学び直し」です。
日本の場合は残念ながら、諸外国に比べるとこういった「学び直し」に対する関心が低い―。そのことが生産性の低さに結び付いています。

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ここでは詳しくは述べませんが、日本の企業が衰退した一つの要因として「生産性の低下」があると散々言われてきました。経済大国であるにも関わらず生産性が低い、と。その理由はさまざまありますが、「学び直し」とも関係していると言われています。国も企業も変わらなくてはいけませんし、これらを支えているのは個人なので、個人そのものが変わらなくてはいけません。個人が変わるために何が必要かというと、「学び直しが必要」ということです。

そして、もう少し現実的な話をしましょう。
学び直しをするとどんな良いことがあるのかというと、「所得が上がる」んですよね。

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▲勤務先でのスキルの習得状況と評価・年収

このように学び直しをしていけば、勤務先で評価され、やがては収入にも関係してきます。

今もそうですが、この先コロナが終息したときには、世の中が大きく変わっています。そしてそれは続きます。
この大きく変わっていく世の中に適応していくためには、「学び直しをすること」が非常に大切ですが、とくに重要なのは、「学び直そう」という意欲や思考のクセ、そして容易に取り組もうという継続的な姿勢です。ぜひ、皆さまが持っていらっしゃる学び直しの意欲に水をやり芽を育て、まだ見ぬ可能性に挑戦していただければと思います。

※リカレント教育とは?
「人生100年時代」を迎えようとする今、人々の価値観や人生設計は多様化し、学び直しなどをはじめ生涯にわたって学びを続ける「リカレント教育」に注目が高まってきています。リカレント教育とは「生涯を通じて学び続けていくこと」を言い、語源となる"recurrent"は「循環する」「再発する」といった意味があり、学校を卒業して仕事に就いても学び続けることが望ましいと考えられています。こうした社員の取り組みを推進できるよう、自発的なリカレント教育制度を整える企業も増えてきています。

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