STEAM教育
好きを極めれば"算数好き"に!?東大教授の西成先生に聞く「理系脳の子どもを育てる」方法-前編‐
この度、2021年イグノーベル賞(物理学賞)を授賞された、東京大学先端科学技術研究センター教授であり、ヒューマンアカデミージュニアSTEAMスクール「さんすう数学教室」のアドバイザーでもある西成先生に、「算数・数学の学びと親子の向き合い方」についてインタビューしました。
西成先生が「渋滞学」を生み出したきっかけから、研究者になった背景、子どもが算数好きになるためにはなど、前編・後編の二回にわたってたっぷりお届けします。きっとあなたの「算数・数学への向き合い方」も変わるはずです!
■西成 活裕(にしなり かつひろ)先生
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
ヒューマンアカデミージュニアSTEAMスクール「さんすう数学教室」アドバイザー。
1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。
その後、山形大、龍谷大、ドイツのケルン大学理論物理学研究所を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター教授。ムダどり学会会長、ムジコロジ―研究所所長などを併任。
専門は数理物理学。様々な渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。
2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出、東京オリンピック組織委員会アドバイザーにも就任している。
日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」やTBSテレビ「東大王」に多数回出演するなど、多くのテレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍している。趣味はオペラを歌う事、そして合氣道の稽古。
"今"注目が高まる、人や物の流れをスムーズにする「渋滞学」って?
―この度は「イグノーベル賞」ご受賞、誠におめでとうございます!こちらの賞は、「人々を楽しませ考えさせた研究」に与えられる賞とのことですが、皆さん「今の社会に必要な研究」であると感じられたと思います。そこで先生が生み出された「渋滞学」について、簡単に教えていただけますか?
ありがとうございます。車や人の「渋滞」や「混雑」は今や大きな社会問題の一つですが、この緩和をめざして新しい数理物理学的なアプローチで研究をするのが、私が取り組んでいる「渋滞学」です。
渋滞は、車や人だけでなく、バスやエレベーターなどでも発生しますよね。そして工場での生産ラインや物流現場で在庫がたまるのも「渋滞」といえます。
全国的に「緊急事態宣言」が解除されて、人の流れがまた戻りつつある今、我々は今後どのように移動したり、人と会ったりしたらいいのかという問いは、非常に重大な課題ですし、世界的な問題でもあります。それに対して「渋滞学」が色々と寄与出来るのではと考えています。
たとえばコンサートを考えてみましょう。今までは満員のお客さんで盛り上がっていましたが、今後は「人が少ない中でどうやって楽しんでいただけるか?」、あるいは「人がたくさん来ても安全な空間をつくるにはどうしたらいいのか?」といったことが必要になります。そういったことを施設運営の方々とも議論しているのですが、人の流れに対して安全に、かつスムーズにというのは、今以上に取り組みが必要な課題です。
(2021.9.9イグノーベル賞受賞式の様子: 写真右上が西成先生)
西成先生が「渋滞学」を生み出したわけ
「渋滞って誰も好きな人はいない」と思うんですよ。私も昔から大嫌いで。東京で生まれたのですが、混雑している場所で無意識のうちに倒れたことがあったんです。なので、本当に混雑をなんとかしたいという「想い」が根底にありました。
また、昔から理数系が好きだったので、研究とか勉強をしていくなかで、水や空気の流れというのが面白いなと思っていました。ただこれは先人が研究し尽くしていて、これらの知見を応用して「人の流れ」とか「車の流れ」を研究したら役立つんじゃないかと、ある時気付いたんですね。
水とか空気の流れを研究するために必要な数学はマスターしたので、その武器をひっさげて、車とか人の流れとか物流に切り込んでいったら新しいんじゃないかと。博士課程の当時、苦しみながら考えました。
子どものころからの「渋滞が嫌いだ」っていう想いもあったので、感情と理屈が結び付いたかんじですね。
"なんでだろう?"と「不思議に思う」ことが研究のはじまり
実は私、中学校とか高校時代から元々は宇宙に「興味」があったんです。「宇宙ではどういうふうに星ができていくのか?」とか、「宇宙の果てはどうなっているのか?」とか、子どもが抱きやすい疑問にロマンを感じていました。いまだに思っていますけど(笑)。
それで「宇宙について勉強したい!」って思ったのが元々だったんですね。そして先ほども言いましたが、自然界の「流れ」とか「動いている」という部分にも興味がありました。たまに海に行って波を見ていると、波の形はバラバラだし、非常に多様性があるんですよね。同じ形ってひとつもないじゃないですか。
そのような「不思議さ」や「魅力」をずっと感じていたというのがありました。なんでだろう?こういうのって科学で解明できるのかな?と好奇心で考えていましたね。
小学校5年生くらいの時に「未来のあなたへ」という作文を書いたのですが、先日それを読んでみたら「研究者になりたい!」と書いてありました。自分でもびっくりです。どうやら小学生の時から、研究者を志していたみたいですね。
科学者になりたいと思ったきっかけは?
これもたまに聞かれるんですけど、「家庭環境かな」と思うんです。というのは、うちの父が技術者で、父が電子部品をよくハンダ付けしていたんです。父はほんとにそういうのが好きで、小さいころから部品を買ってはラジオとかを家で組み立てたりしていました。
最初は何をやっているか全然分からずに見ていたのですが、「これを組み合わせるとラジオになるぞ!」と、父が目の前で作ってくれたんです。これとこれを組み合わせてイヤホンを付けると、「ほら聞こえるだろ?」と。確かに聞こえるんですよね。その時、「ラジオって作れるんだ!」って感動したことを覚えています。
そういう原体験があって、電気ってなんだろう?とかを自然に考えるようになりました。小学生のころだと夏休みの自由研究で「星の観察」に興味を持ったりと、自然と理系のほうに導かれていった感じがしますね。
"数学ギライ"はもったいない?数学はより良く生きるために使える
―世間ではけっこう「数学ギライ」の大人って多いかなと思うんです。数学嫌いの保護者もいる一方で、子どもたちには「教えなきゃいけない」というジレンマもあるのかなと。そういう大人たちが「子どもと一緒に」数学に親しむにはどうしたらいいでしょうか?
難しい問題ですよね。数学なんてやらなくても生きていけるじゃん、と考えている人もいるようですが、あるとないとでは全く違います。人生が豊かになるんです。
「より良く生きていく」っていうのかな。つまり、算数や数学の活かし方が大切です。
皆さん活かしていないだけであって、同じことやるにしても、ちょっと「数学のスパイス」を入れるだけで、ものすごく効率良くできたり、人の3倍くらい稼げたりします。
いろんなことが「うまく出来る」わけですよ。数学が嫌いな方は、そのチャンスを失っちゃっていることが、とても残念な気がしています。
まず数学は、私立の文系でも「必要な科目」のひとつだったりしますよね。なぜ理科や化学などがなくて、数学が絶対に全部にあるのかというと、それはやっぱり「大事だから」なんです。国としても、算数・数学は「基本だから」やっておくべしということで、選ばれているわけですよね。
(西成先生の著書『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』は20万部以上販売するベストセラー書籍。「数学ギライ」な大人はぜひ読むといい。)
私たちの日常には「算数・数学」が溢れている!
なんで算数・数学がそんなに色んな所で大事だと言われているのかというと、それはやっぱり「役に立つから」なんですよ。役に立ち方っていうのも、私がやっているような直接的なものもあるし、あとは論理力っていうのかな、「考える力」も数学と同じ考え方です。
例えば仕事で議論したり、クライアントに説得しに行ったり、人と話す時に支離滅裂な話をする人って、たぶん二度目はないですよね。そういう人間関係って続かないじゃないですか。しっかりと「論理立てて」話をして、漏れなく話しているかどうかっていうのも、私から見れば「広い意味での数学力」なんですね。
だからきっと、「数学を狭くとらえている」人が多いんじゃないかなと思います。実は「これも数学」、「あれも数学」というものは世の中にかなり溢れています。
もっと言うと実は、この前も講演させていただきましたけど、数学って「論理」なんです。
国語は、論理を日本語で書いたもの。"論理を記号で書いたもの"が数学。私からすると同じことです。
なので、もっと「広い意味で」数学を捉えていただくというのが第一歩だと思います。
算数・数学は「勉強」じゃなくて"役立つスキル"だ!
さらにおすすめなのは、「自分の好きなもの」と上手く絡めていくということですね。ゲームでもいいですし、美味しいものを食べるときでも、なんでもいいです。
たとえば親子で一緒に料理を作ってみるとして、レシピに「600Wで2分」って書いてあったとします。でも「うちの電子レンジは500Wだ、じゃあ何分にすればいいんだろう?」ということもありますよね。そんなときは、まず考えてみてください。分からなければ、ネットで調べてもいいんです。
日常のなかで、我々は「どこで計算しているか」というのを、もう一回思い出してもらえるといいと思います。
ほかには「お風呂、あと何分で沸く?」とかもあります。私は中学生のときに、お風呂をじーっと見ていて、「何分で何センチ」お湯が上がるかを測っていたんですよ。それでお風呂が満タンに溜まるまで、あと何センチかを測って、「割り算」すると分かるんです。それで親に「あと15分で溜まるね」とか言っていました(笑)。
そうやって日常のなかで、小学校で学んだ算数って「使える!」と実感していくことが大切です。だから計算力って大事なんです。
計算ができれば、何分後にお風呂が沸くかなどはすぐに分かってしまうわけです。「じゃあその間に動画見よう」とか、「曲が2曲聞けるね」とか、色々考えられるじゃないですか。
それが自信につながっていきますし、役立つものだと実感できます。
そういうふうに算数とか数学を使っていくと「効率良く生きていける」と思いませんか?
こんな話を、親子でもどんどん広げていただければ面白いと思うんですよね。
-
後編では、これからの時代、「私たち大人は、子供とどう向き合っていけば良いのか?」などの核心に触れていきます。ぜひ合わせてご覧ください!