STEAM教育
好きを極めれば"算数好き"に!?東大教授の西成先生に聞く「理系脳の子どもを育てる」方法-後編‐
この度、東京大学先端科学技術研究センター教授であり、ヒューマンアカデミージュニアSTEAMスクール「さんすう数学教室」のアドバイザーでもある西成先生に、「算数・数学の学びの大切さ」についてお話を伺いました。
後編では、これからの時代、「算数・数学とどう向き合っていけば良いのか?」という核心に触れていきます!
■西成 活裕(にしなり かつひろ)先生
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
ヒューマンアカデミージュニアSTEAMスクール「さんすう数学教室」アドバイザー。
1967年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)の学位を取得。
その後、山形大、龍谷大、ドイツのケルン大学理論物理学研究所を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター教授。ムダどり学会会長、ムジコロジ―研究所所長などを併任。
専門は数理物理学。様々な渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱し、著書「渋滞学」(新潮選書)は講談社科学出版賞などを受賞。
2007年JSTさきがけ研究員、2010年内閣府イノベーション国際共同研究座長、文部科学省「科学技術への顕著な貢献 2013」に選出、東京オリンピック組織委員会アドバイザーにも就任している。
日経新聞「明日への話題」連載、日本テレビ「世界一受けたい授業」やTBSテレビ「東大王」に多数回出演するなど、多くのテレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍している。趣味はオペラを歌う事、そして合氣道の稽古。
"これからの時代"の「親と子ども」の向き合い方
―前回のお話を伺っていて、たしかに算数を「勉強」という視点ではなく「自分がラクに生きるために使っていける手段」と思ったら、「マスターしといたほうが便利だよ」と心の底から言える気がしてきました(笑)。
今、小学校でもプログラミング教育が必修化して「論理的思考」を育てようといった「時代のうねり」のなかにあるかと思いますが、親は子どもに対して、どのように対応していくのが良いと思われますか?
親も子どもも含めて、見通しができない時代――VUCAの時代とも言いますが――昔と違って変化が激しく先が見えなくなってきました。でも「変わらないもの」もあるんですよね。
「これはいつも変わらない」、あるいは「これは信用できる」といったものが自分の中に背骨みたいにあると、非常に「生きる支え」になると思うんです。
それが私は「数学」だと思っていて、「論理」がしっかりしていれば、たとえばAIがいくら賢かろうが、「数学的に考えたら、これは絶対に出来ない!」という事がいっぱいあるわけです。
論理を使って「正しく」見極める
論理的に考えられる人は、「AIにはこういう事が出来る、出来ない」という事が、記事を読んだりすれば解ると思うんですよね。そこは人間がしっかりやらないといけないところです。
情報を取り入れつつ、「情報の死角」を見極める。良いことばっかりじゃなくて、「どういう弱点があるのか?」というのをしっかり見極めるには、自分の論理力がないとダメです。
それを駆使してサイトとかで分かりやすく教えている人もいます。ヒューマンアカデミージュニアのサイトもそうですよね。そういうところを見て、「こういうふうに考えればいいのか!」というのを自分でも取り入れていくと良いと思います。
"年齢なんて関係ない!" 「親子で学び続ける」ことの大切さ
親世代で「もう勉強しなくてもいいや」と思っている人が少なからずいるのは、正直ちょっと残念だと思います。人間って、「一生勉強」なんですよね。なので、子どもと一緒に自分を高めていけば良いと私は思うんです。
この前80歳ぐらいで大学に入って、博士号を取った人のニュースも出ていました。勉強をするのに遅いということはないし、いつまでも出来る。リカレント教育も大切だと思います。
子どもをきっかけに、自分が苦手だなと思ったところを勉強し直すチャンスだと思って、ぜひ一緒に勉強しながら考えてみてください。
大人は子どもと違って経験がありますから、学ぶうちに「これはおかしいんじゃない?」とプラスで分かることも出てくると思うんですよ。
そういう知識があれば、変に恐れないで、「正しく恐れる」ことができます。これらもぜんぶ「論理力」だと思うんです。そういうふうに考えていけば、この「不確実な時代」にもしっかりと腰を据えて生きていけるんじゃないかなと私は思います。
「なぜ?」という問いが論理力を上げる
もう少し掘り下げると、論理ってみんな面倒くさがるんですよね。一から説明せずに「これはこう」とか一言で済ませたほうが分かりやすいし楽なので。
でも私の場合、「論理」って考えると、定義は「二段以上」と言っています。
「これはAだから→次はBになって→だからそれがCになる」というのは三段以上考えていて、論理のうちに入るのですが、クイズ番組のように「AはB」というのは論理じゃないんです。なぜなら、一段しかないから。
もっと分かりやすく言うと、論理というか二段以上の考えがあって初めて「考えている」と言えるわけです。だから一段のときを、私は「反射」と呼んでいます(笑)。それは考えていないとも言えるのです。
子どもの「なぜ?」に一緒に向き合って欲しい
疲れていると、「質問」って正直面倒くさいですよね。でも子どもって、よく「これなんで?」って聞くじゃないですか。大人がそれに答えると、さらに「じゃあそれはなんで?」って聞いてくる。そうなると、親は三回目くらいで「もううるさい!」ってキレるわけですよ(笑)。
でもそこでキレないで、子供に負けないくらい自分も頑張って何段もついていくと、どんどん論理力って上がるんですよね。「考え続ける」ということがとても大事なんです!
自分も昔はそうだったはずなんです。「なんでなんで攻撃」をやるのが子どもで、大人はそれをどっかで忘れて捨てている。それをずっと保っているのが研究者なんですけどね(笑)。
研究者ほどする必要はないんですけど、最低三段くらいでは、キレないでいただきたいです。
電車とかでたまに、先ほどのような親子の「なんでのやり取り」が聞こえてくるんですけど、そういう時に親が「うるさい」ってキレたり、はぐらかしたりして会話が終わっていることがあります。そうではなく、面倒くさがらずに「なんでだろうね?」と一緒に考えてあげて欲しいですね。そうすることで自分も鍛えられるのですから。
"学問は繋がっている"「STEAM」教育に見る理系の大切さ
―先生は「STEAM教育」が社会にもたらす変化などはどのように思われますか?
最近はいっそう「理系教育の大切さ」が説かれるようになりました。私自身も実感していますが、とくにSTEAM教育は、横断的に学ぶことの大切さを一語で表していると思います。STEMやSTEAMなどありますが、「STEAM」には「A =Art(教養/創造性)」が入っているんですよね。そこが私はすごく好きです。
私は音楽が好きで、趣味でオペラを歌うんですけど、常々思うのは、「音楽は数学なくてはあり得ない」ということです。音階だとか楽譜だとかは非常に数学的なものですし、そもそも音階をつくったのは「数学者のピタゴラス」ですから。遠近法なんかも完全に幾何学ですし、芸術と数学って密接に関わり合っているんですよね。
そういうところも忘れないでおくと、数学って「もっともっと広く」思えるし、技術的なところで言うテクノロジーやサイエンス、エンジニアリングなどもそうですよね。
一つひとつが独立したパーツではなく、「STEAM全体が繋がっている」という意識を持ちながら学んでいくと、もっと発想も広がるし、面白い世の中になっていくなと思いますね。
"好き"を突き詰めると数学につながる?子どもたちに大切にしてほしいこと
昨日も私、1,000人の高校生たちの前で話したんですけど、「数学が嫌いな人~?」って聞くと結構な数の手が挙がるんです。でも私は、嫌いならそれでもかまわないと思います。
「じゃあ好きなもの何?」って聞くようにしているんですが、「好きなものはありません」っていう子には、「じゃあお寿司好き?」って聞くと「好きです、好きです!」って嬉しそうに答える。ほら、あるじゃないかって(笑)。
何かあるんですよね、好きなものは。まずはそういう「好きなものを伸ばしていって欲しい」と思います。結果的に、その好きなものの中に数学が入っているんです、絶対。数学が入っていないものは世の中にはないですから。
さっき挙げた音楽だって、ヒット曲の楽譜をダウンロードして見てみると、楽譜のなかには非常に「色んな計算」が入っているわけです。そういうのを分析していくと、「Aメロのなかに絶対"繰り返し"が現れるパターンがある」と分かる。「じゃあそれを数学的に分類したらどうか」と考えてみる。それだけで十分、卒業論文になるんですよね。実際に「好きな曲を数学的に分析してみた」とかありますよ。
「数学を好きになるよう」努力するんじゃなくて、「好きなものを伸ばす!」のが大事。それはなんでもいいんです、別に数学じゃなくてもいい。そのなかを覗いてみると、数学は100%あるので、子どもたちには「まずは、好きなものを磨いてください」と言いたいですね。
それを極めれば極めるほど、算数・数学が必要になります。「自然に」教えてくれますから心配しなくて大丈夫!
好きなことだったら、きっと考えることも楽しいですよ。「なんでこれが上手くいっているのかな?」とか考えていくと、実はそのなかにすべて算数や数学が隠れています。そうすると、嫌いなものもだんだん好きなものに寄ってくるんですね。そうして算数や数学は、自分の"好き"を極める武器になります。好きなもの加速させる「ブースター」の役割もあるのかもしれません。
好きなことを磨きつつ、「将来の力を伸ばす」ために算数ができるようになってくれたら、こんなに素晴らしいことはありません。
だから私は子どもたちに、「好きなものはなんですか?」と聞いているわけです。
編集後記
今回は前編・後編にわたって西成先生のお話をお届けしましたが、「算数・数学のイメージが変わった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、目から鱗の連続!算数・数学の魅力を、初めて感じることができました。
とくに最後の「算数や数学にとらわれずに好きなものを極めていい。その先に算数・数学があって自然と寄ってくるのだから」というお言葉には、勇気をいただいたような気さえします。
保護者としては、まずはその子の気持ちに向き合ってあげることが大切なのかもしれませんね。
子どもと向き合っていくなかで、「やはりうちの子は算数が苦手だから心配」や「勉強を押しつけてしまう」などの悩みは出てくるかと思います。
そんな時は、子ども一人ひとりにぴったり合わせた「ムリのない」学習プログラムを活用して、子どもの算数・数学力と一緒に、自信を育ててあげましょう!