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マナビ語学

累計3万部以上発行された日本語学習者向けオリジナル教材『つなぐにほんご』制作への想い

 ヒューマンアカデミー日本語学校は、日本語学習者向けに、オリジナル教材『つなぐにほんご 』(アスク出版)を開発しました。累計3万部以上発行されています。今回は『つなぐにほんご』の著者であるヒューマンアカデミー日本語学校東京校の辻和子校長に、執筆の狙いや、『つなぐにほんご』初級シリーズを完結し終えた今の想いを伺いました。

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「できること」を増やす『つなぐにほんご』制作の狙い

 『つなぐにほんご』は、「日本語で何ができるようになるか」をテーマとした初級日本語の教科書です。日本語は、語彙や文法のテストで100点が取れるだけでは使えるようにはなりません。私たちの学校の学習者が日本語学校を卒業した後に求められるのは、常に「あなたは日本語で何ができますか?」です。適切な日本語と、それにふさわしい表情、声のトーン、文化理解を駆使して、「買い物ができる」「電話が掛けられる」「交渉、依頼ができる」といった、「できること」を積み重ねていきます。『つなぐにほんご』は、課ごとに学習して「できる」ようになる目標があり、学習者はその課を学習した後に、できるようになったかどうかをチェックするようになっています。

「コミュニケーション重視の学習」を目指していたはずが・・・

 日本での日本語教育は、1980年代に留学生10万人計画が発表されて、広がりました。当初はコミュニケーション力を重視していたのですが、「日本語能力試験(JLPT)」ができて、「日本語能力試験1級合格」を留学生に対する合格要件とする大学が多くなりました。それにより、日本語学校は日本語能力試験合格のための授業に力を入れることになりました。日本語能力試験は筆記テストのみですから、1級に合格はしたけれど、ほとんど話せない学習者もいました。

ヒューマンアカデミー日本語学校では、1990年代中頃に『にほんご90日』(ユニコム)という初級日本語の教科書を開発しました。当時も、「コミュニケーションを大切に」と考えていましたが、教科書は文法とかや語彙にフォーカスが当たっていました。ですから、語彙や文法を学習してから使う練習をするという授業スタイルには合っていましたが、「まず使ってみる。そのあとで、言葉や文法を確認する」というスタイルの授業をするのは大変で苦労していました。

本当につくりたかった『つなぐにほんご』への挑戦

 2013年の冬に、新しい教科書を執筆してみないか、と会社から打診がありました。そこで目指していた「学習者ができるようになることを目標とした教科書」の開発を始めました。まずは校内版を作り、使ってみて修正し、また使うという作業を繰り返しました。

『つなぐにほんご』という書名は、20143月の卒業式で「みなさん、みなさんが勉強した日本語を使ってみなさんと日本をつないでください。みなさんの国と日本をつないでください。世界をつなぐ人になってください」とスピーチしたことから思いついて、決めました。そして2015年、『つなぐにほんご』を出版してくれる出版社を探しました。打診した数社のうち、アスク出版が関心をもってくださり、出版が決まりました。

 以来、アスク出版の編集者の方といっしょに『つなぐにほんご初級1』『つなぐにほんご初級2』同ワークブック、読解教材『110分初級からはじめる読解120』、学習者用文法解説書(英語版・ベトナム語版)、講師用指導書を開発してきました。

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 2019年12月政府が「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を出し、外国人材との共生社会を目指すこと、そのための日本語教育を拡充することを国策とすると述べました。日本政府が「外国人材をパートナーとして受け入れ、共生していく」という意向を示し、責任を持って「日本語教育を提供していく」とアピールしたことは画期的であり、大変意義深いことだと思います。日本語教育が国策に組み込まれた、と言えます。そして、日本語教育の目標が、外国人材が日本で生活し、日本社会で活動するために必要なコミュニケーション力を養成することになったと言えます。

「まずはやってみる」ことがポイント

 日本語の初級教科書には、まず語彙や文法を学び、それを使う会話例を覚えて、その後応用し、最後に実際の場面で使ってみるという順序のものが多いのですが、『つなぐにほんご』は、逆です。まず実際の場面の会話をしてみる練習から入ります。例えば、「果物屋さんにリンゴを買いに来た」というシーンで何を言うかを考えて、日本語で言う練習をします。その後で、使った言葉や文法を確認します。確認したら、その後で「リンゴ」を「靴」に変えたりして応用練習をします。まずやってから使った語彙や文型を学習すると、学習者は知っていることを確認する作業になるので、楽に学習を進めることができます。「まずやってみる。やりながら学ぶ」という考え方は、CEFRの行動中心主義の考え方と同じです。

来日前の技能実習生の教育に高い評価

 『つなぐにほんご』は、経験の浅い先生やノンネイティブの先生にも楽に使っていただけます。学生が演じて練習しながら学習を進めていきます。教師が一方的に文法などを細かく説明することはありません。私たちはこれを「教えない授業」と呼んでいます。教師は教える存在ではなく、演じて練習する場面をコーディネートする役割です。

 ヒューマンアカデミーはベトナムやインドネシアで、来日前の技能実習生候補者に日本語教育を行っていますが、そこでも『つなぐにほんご』を使っています。来日後、ヒューマンアカデミーの実習生はよく話せるという評価もいただいています。『つなぐにほんご』のテーマである「コミュニケーションを重視した学習スタイル」が高く評価されていることをうれしく思っています。

ここからが本当のスタートライン

 『つなぐにほんご』初級シリーズが当初想い描いていたものが形になるまで、約5年かかりました。やっとこれから本格的に皆さんに使ってもらえるようになりました。今まさにスタートラインに立った気持ちです。

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<略歴>

辻和子 ヒューマンアカデミー日本語学校東京校 校長

著書に『まんがでまなぶにほんご会話』(ユニコム)『つなぐにほんご』シリーズ(共著:ask出版)、『にほんご90日』『ドリル&ドリル日本語能力試験』各シリーズ(共著:ユニコム)『改訂版 日本語教育能力試験に合格するための記述式問題40』(共著:アルク)などがある。

日本語教育学会、日本語教育方法研究会、日本語OPI研究会、ビジネス日本語研究会、会員

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